にんげんマネジメント

マイノリティの闘いかた

メンヘラと私

私はこれまでいわゆるメンヘラの人たちに少なからず影響を受けてきた。

 

思えば中学生のころあたりからなぜかそういう人と関わることが多かった。
というより、例えばクラスで完全に孤立したメンヘラの子がいて、他のクラスメイトとは一切口をきかないのに私だけに話しかけてくれる、というケースが多かったように感じる。

もっとも、そんな傾向を実際に感じ始めたのは成人してからであるが。

 

私はメンヘラの人に対して、どこか憧れと同情が入り混じった中にもうひとつ別の感情を足したような気持ちで接してきたように思う。

 

憧れというか一種の敬意のようなものを抱くようになったきっかけのひとつを書いてみる。

 

私が中学2年生のときHさんというクラスメイトがいて、Hさんは年度の途中から登校拒否をするようになった。
たまに登校する日も彼女は基本的に保健室にいて、登校拒否するようになってからは同じ教室で授業を受けることはなかった。

Hさんは授業だけでなく教室で給食を食べることも拒否していたため、必ず女子の誰かが保健室まで給食を届けることになっていた。しかし、Hさんは全く給食に手をつけなかったため、わざわざHさんに給食を運ぶことに疑問を感じていた女子も多く、Hさんはクラスメイトにあまり良く思われていなかった。「あいつは頭がおかしい」と言う人すらいた。Hさんは今でいうメンヘラに該当していたと思う。

私はHさんについては特にどうも思っていなかったが、彼女が給食を食べない理由が気になっていた。

 

ある日、私は体育の授業でちょっとした怪我をしてしまった。(巻き爪になっていた足をバスケ中に踏まれて流血しただけなので怪我というより持病だが。)保健室に行くとHさんがいた。顔を合わせるのは数ヶ月ぶりだった。

私はあまり迷うことなく、Hさんに給食を食べない理由を訊いてみた。一言でいうと給食が「怖い」とのことだった。

当時の自分には詳細を充分に理解できなかったためか、具体的な言い回しは思い出せないのだが、推測による補正を入れると「全員が同じものを一斉に食べるのはリスクマネジメント上、不利なのではないか」ということを言いたかったのだと思う。

 

私にとってこの「給食=怖い」という回答はとても斬新だった。

給食といえば、中学生にとって今日のメニューが「ウマいかマズいか」、保護者にとって給食費が「高いか安いか」くらいしか判断の軸がないと思っていたところに、実は「怖いか否か」という次元が存在していたのである。

あれから20年近く経った今は、当時よりも食の安心・安全の重要性が見直され、テロの危険性なども実感できる時代になったため、「怖いか否か」という次元をある程度理解できる人も多いだろうが、あの頃そんなことを中学生の女子が発言したところで誰も耳を傾けなかっただろう。

当時のHさんがどこまで考えていたかはわからないが、教室に行くことができないほど繊細な感覚の彼女にしか見えないモノがあったのだと思う。

 

  • 【余談1】数年後、大学生の私が金城一紀の『GO』を読んだとき、ヒロインの桜井の台詞に似たような給食論があって驚いたのを覚えている。(その後、窪塚洋介柴咲コウの主演で映画化された際はもちろん観に行ったが、脚本を手がけた宮藤官九郎には響かなかったのか、残念ながらその台詞はカットされていた。)

  • 【余談2】「学校給食が必要かどうか」は公共のFMにおける議題のひとつでもある。「食育」に関連することはもちろん、上記のように「安全」かどうか、また自治体にとって調理士や栄養士の「雇用」など、様々な問題が関係するため、画一的な答えはないようだ。

 

このような出会いが何度かあるうちに、私はメンヘラの人に対して、周りの人たちのように「あいつは頭がおかしい」と安易に見下すことができなくなっていった。

「何か自分にはない軸を持っているかもしれない」という可能性が、冒頭で言ったメンヘラへの「憧れ」のようなものに結びついているのだと思う。

しかし、もうひとつ冒頭で言ったように、私はどこかでメンヘラに「同情」している部分もある。マイノリティであることを積極的に生かそうとする能動的なメンヘラはほんのごく一部で、私が出会ったメンヘラのほとんどはマイノリティであることに絶望するあまりマジョリティと向き合おうとする姿勢すらない。そういった姿に苛立ちを感じることもあった。

 

メンヘラの異性と関わることが多かった私は、これまで知人に「お前、メンヘラが好きなんだろ」と言われたことが何度もある。

そんな時は、メンヘラの人たちと関わる理由として上記のように「憧れ」や「同情」を挙げ、好意については否定してきたが、これについては正直自分でもよくわからない。

好きなのかもしれない。

少なくとも多くの影響を与えてくれたことは間違いない。

 

メンヘラをメインテーマにした記事は書かないと思うが、こういった人たちから学んだこと、それを踏まえて私が感じたことなどは書いていきたいと考えている。